(三五)小式部内侍定頼卿の経にめでたる事

原文

  1. `今は昔小式部内侍に定頼中納言物云ひ渡りけり
  2. `それにまた時の関白通ひ給ひけり
  3. `局に入りて臥し給ひたりけるを知らざりけるにや中納言寄り来て敲きけるを局の人
  4. `かく
  5. `とや云ひたりけん沓をはきて行きけるが少し歩みのきて経をはたと打あげて読みたりけり
  6. `二声ばかりまでは小式部内侍きと耳を立つるやうにしければこの入りて臥し給へる人
  7. `怪し
  8. `と思しけるほどに少し声遠うなるやうにて四声五声ばかり行きもやらで読みたりける時
  9. `
  10. `と云ひてうしろざまにこそ伏し反りたれ
  1. `この入り臥し給へる人の
  2. `さばかり堪へ難う恥かしかりし事こそなかりしか
  3. `と後に述給ひけるとかや