現代語訳

  1. ``羅貫中は水滸伝を記して
  2. ``子孫三代聾唖の子が生まれ
  3. ``紫式部は源氏物語を著して
  4. ``一度地獄に落ちたという
  5. ``これは偽りを真実として書いた業が己が身に及んだためである
  6. ``しかしながらその文を読んでみれば
  7. ``それぞれ興奮するほどにおもしろく
  8. ``鳥がさえずり静まるがごときめりはりは真に迫って
  9. ``抑揚も転がるようで
  10. ``読者に共鳴を与える
  11. ``太古の事実を目の当たりにするがごとしである
  1. ``私はちょうど、いま語るにふさわしい閑話を持っている
  2. ``語りたいままに語ってみたい
  3. ``それは雉が鳴き龍が戦うがごとき話である
  4. ``自分でも杜撰であることは認める
  5. ``よって本書を読む者も
  6. ``実話として読んではならない
  7. ``創作を私が書いたとして、どうして報いを受けて兎口・獅子鼻の子孫が生まれることがあろう
  1. ``明和五年の晩春
  2. ``雨晴れて月がおぼろにかすむ夜
  3. ``窓の下にて編成し
  4. ``これを書肆に託して
  5. ``雨月物語と題した
  6. ``剪枝畸人ここに記す