原文 `栃内村の林崎に住む何某と云ふ男、今は五十に近し `十年あまり前のことなり `六角牛山に鹿を撃ちに行き、オキ一を吹きたりしに、猿の経立あり、之を真の鹿なりと思ひしか、地竹を手にて分けながら、大なる口をあけ嶺の方より下り来れり `胆潰れて笛を吹止めたれば、やがて反れて谷の方へ走り行きたり