月影傾きて

現代語訳

  1. `さて、私の一生も、月が傾き山の端に近づくようにわずかとなった
  2. `たちまち死が訪れ三途の闇に向かおうとするとき、愚痴を言っても始まらない
  3. `仏の説かれた趣意は、何事も執着するなということである
  4. `ならば、今この草庵を愛するのも罪ということである
  5. `閑寂な暮らしにも執着すべきではない
  6. `どうして役に立たない楽しみを述べて、空しく時を費やしているのだろう
  1. `静かな暁にこの道理を思い続けて、自ら心に問いかけてこう呟いた
  2. `遁世して山林に入ったのは、心を修めて勤行するためであった
  3. `ところが、おまえの姿は聖に似ているが心は俗によって濁っている
  4. `住まいは浄名居士の庵に住んだ真似をしているが、戒律を保つところは周利槃特の行いにすら及んでいない
  5. `もしやこれは貧賤の報いが自分を悩ましているのか
  6. `はたまた妄心が狂わせているのか
  7. `その時、我が心はまったく答えられなかった
  8. `すぐそばにあった舌を使い、願うことなき念仏を二・三度唱えて終わったのである
  1. `時に、建暦二年三月末日、僧・蓮胤が外山の庵でこれを記した
  2. `月影は、入る山の端も恨めしい、絶えぬ光を見続けられたら