一三四五燈籠

原文

  1. `またこの大臣は当来の浮沈を嘆き六八弘誓の願に準へて東山の麓に四十八間の精舎を建て一間に一つづつ四十八の燈籠を懸けられたりければ九品の台目の前に輝き光耀鸞鏡を琢いて浄土の砌に臨むかと疑はれ毎月十四日十五日を定めて大念仏ありしかば当家他家の人々の許より眉目よく壮んなる女房請じて一間に六人づつ二百八十八人の尼衆と定めて大臣行道の中に交じり給ひて一向この両日が間は一心不乱の称名の声退転なし
  2. `されば来迎引摂の悲願もこの所に影向を垂れ摂取不捨の光もこの大臣をのみ照らし給ふかとぞ覚えたる
  3. `十五日の日中を結願として大臣西に向かつて手を合はせ
  4. `南無安養世界教主弥陀善逝三界六道の衆生を普く済度し給へ
  5. `と廻向発願し給へば見る人慈悲心を興し聞く者感涙を催しける
  6. `それよりしてこそこの大臣を
  7. `燈籠大臣
  8. `とは申しけれ