二八四世尊寺に死人を掘り出す事
現代語訳
- `昔、世尊寺というところは、桃園大納言・藤原師氏がお住まいであったが、近衛大将になる宣旨を受けられたので、大饗を催すために修理をして、まずお祝いをされ、宴は明後日というときにわかに亡くなった
- `使用人はみな離散し、奥方と若君のみが寂しく住んでおられた
- `その若君は、主殿頭ちかみつといった
- `この邸を一条摂政・藤原伊尹殿がお取りになり、太政大臣となって、大饗が催された
- `未申の角に塚があった
- `築地を築いて、その隅には下沓の型があった
- `殿は
- `そこに堂を建てよう
- `この塚を取り払い、その上に堂を建てよう
- `と決められたので、人々も
- `塚のために、立派な功徳になることです
- `と言い、塚を掘り崩すと、中に石の唐櫃があった
- `開けてみれば、年二十五・六くらいの、色美しく唇の色など生きているときと少しも変わらない、えもいわれず美しげな尼が眠るようにして横たわっていた
- `たいへん美しい色々の衣を着ていた
- `若かった者が、にわかに死んだのであろうか
- `金の器がきれいに据えられていた
- `入っていた物のみな香ばしいことは他に類がない
- `驚きながら、人々が立ち混み見ているときに、戌亥の方から風が吹くと、色々の塵となって失せてしまった
- `金の器より他のものは、なにひとつ残らない
- `はるか昔の人でも、骨や髪が散ることはない
- `このように風が吹き、塵になって吹き散らされてしまうというのは、世にも不思議だ
- `と言って、当時、人は驚きあきれた
- `摂政殿がいくらも経たないうちに亡くなったので
- `この祟りではないか
- `と人は疑った