原文 `今は昔季直少将といふ人ありけり `病つきて後少し癒りて内に参りたりけり `公忠の弁の掃部助にて蔵人なりけるこの事なり `乱り心地まだよくも癒り侍らねども心もとなくて参り侍りつる `後は知らねどかくまで侍れば明後日ばかりにまた参り侍らん `よきに申させ給へ `とて罷り出でぬ `三日ばかりありて少将のもとより `悔しくぞ後に逢はんと契ける今日を限りと云はましものを `さてその日亡せにけり `哀れなる事のさまなり