一一七昔々

原文

  1. `昔々これもある所にトトとガガと、娘の嫁に行く支度を買いに町へ出で行くとて戸を鎖し、
  2. `誰が来ても明けるなよ、
  3. `はア
  4. `と答へたれば出でたり
  1. `昼の頃ヤマハハ来りて娘を取りて食ひ、娘の皮を被り娘になりて居る
  1. `夕方二人の親帰りて、
  2. `おりこひめこ居たか
  3. `と門の口より呼べば、
  4. `あ、ゐたます、早かつたなし
  5. `と答へ、二親は買い来たりし色々の支度の物を見せて娘の悦ぶ顔を見たり
  1. `次の日夜の明けたる時、家の鶏羽ばたきして、
  2. `糠屋の隅ッ子見ろぢや、けけろ
  3. `と啼く
  4. `はて常に変りたる鶏の啼きやうかな
  5. `と二親は思ひたり
  1. `それより花嫁を送り出すとてヤマハハのおりこひめこを馬に載せ、今や引き出さんとするとき又鶏啼く
  2. `其声は、
  3. `おりこひめこを載せなえでヤマハハのせた、けけろ
  4. `と聞ゆ
  5. `之を繰り返して歌ひしかば、二親も始めて心付き、ヤマハハを馬より引き下して殺したり
  6. `それより糠屋の隅を見に行きしに娘の骨あまた有りたり

注釈

`糠屋は物おきなり