八一まぼろし

原文

  1. `栃内の字野崎に前川万吉と云ふ人あり
  2. `二三年前に三十余にて亡くなりたり
  1. `この人も死ぬる二三年前に夜遊びに出でて帰りしに、の口よりに沿ひてその角迄来たるとき、六月の月夜のことなり、何心なく雲壁を見れば、ひたと之に付きて寝たる男あり
  2. `色の蒼ざめたる顔なりき
  3. `大に驚きて病みたりしが此も何の前兆にても非ざりき
  1. `田尻氏の息子丸吉此人と懇親にて此を聞きたり