五三色々の鳥

原文

  1. `郭公時鳥とは昔有りし姉妹なり
  1. `郭公は姉なるがある時芋を掘りて焼き、そのまはりの堅き所を自ら食ひ、中の軟かなる所を妹に与へたりしを、妹は
  2. `姉の食ふ分は一層旨かるべし
  3. `と想ひて、庖丁にてその姉を殺せしに、忽ちに鳥となり、
  4. `ガンコ、ガンコ
  5. `と啼きて飛び去りぬ
  6. `ガンコは方言にて堅い所と云ふことなり
  7. `
  8. `さてはよき所をのみおのれに呉れしなりけり
  9. `と思ひ、悔恨に堪へず、やがて又これも鳥になりて
  10. `庖丁かけた
  11. `と啼きたりと云ふ
  1. `遠野にては時鳥のことを庖丁かけと呼ぶ
  2. `盛岡辺にては時鳥
  3. `どちやへ飛んでた
  4. `と啼くと云ふ

注釈

`この芋は馬鈴薯のことなり