一七家の神 - ザシキワラシ

原文

  1. `旧家にはザシキワラシと云ふ神の住みたまふ家少なからず
  2. `此神は多くは十二三ばかりの童児なり
  3. `折々人に姿を見することあり
  1. `土淵村大字飯豊の今淵勘十郎と云ふ人の家にては、近き頃高等女学校に居る娘の休暇にて帰りてありしが、或日廊下にてはたとザシキワラシに行き逢ひ大に驚きしことあり
  2. `これはしく男の児なりき
  1. `同じ村山口なる佐々木氏にては、母人ひとり縫物をして居りしに、次の間にて紙のがさがさと云ふ音あり
  2. `此室は家の主人の部屋にて、其時は東京に行き不在の折なれば、怪しと思ひて板戸を開き見るに何の影も無し
  3. `暫時の間座りて居ればやがて又頻に鼻を鳴す音あり
  4. `さては座敷ワラシなりけり
  5. `と思へり
  6. `此家にも座敷ワラシ住めりと云ふこと、久しき以前よりの沙汰なりき
  1. `此神の宿りたまふ家は富貴自在なりと云ふことなり

注釈

`ザシキワラシは座敷童衆なり。此神のこと石神問答中一六八頁にも記事あり