地勢

原文

  1. `遠野郷は今の陸中上閉伊郡の西の半分、山々にて取囲まれたる平地なり
  2. `新町村にては遠野、土淵附馬牛、松崎、青笹、上郷、小友、綾織、鱒沢、宮守、達曾部の一町十か村に分つ
  3. `近代或は西閉伊郡とも称し、中古には又遠野保とも呼べり
  4. `今日郡役所の在る遠野町は即ち一郷の町場にして、南部家一万石の城下なり
  5. `城を横田城とも云ふ
  6. `此地へ行くには花巻の停車場にて汽車を下り、北上川を渡り、其川の支流猿ケ石川のを伝ひて、東の方へ入ること十三里、遠野の町に至る
  7. `山奥には珍しき繁華の地なり
  1. `伝へ言ふ、
  2. `遠野郷の地大昔はすべて一円の湖水なりしに、其水猿ケ石川と為りて人界に流れ出でしより、自然にの如き邑落をなせしなり
  3. `
  4. `されば谷川のこの猿ケ石に落合ふもの甚だ多く、俗に
  5. `七内八崎あり
  6. `と称す
  7. `は沢又は谷のことにて、奥州の地名には多くあり

注釈

`遠野郷のトーはもとアイヌ語の湖という語より出でたるなるべし、ナイもアイヌ語なり