一〇 殺生岩・遊行柳

現代語訳

  1. `ここ黒羽から殺生石へ向かった
  2. `城代家老に馬で送ってもらう
  3. `この馬の口取の男が
  4. `句を詠んだ短冊をください
  5. `と頼んできた
  6. `風流なことを望むものだ
  7. `と思い、
  8. `野を横に 馬牽き向けよ ほととぎす
  1. `殺生石は温泉の出る山の裏手にあった
  2. `石の毒気はいまだ衰えず、蜂や蝶の類が砂の色が見えなくなるほど重なって死んでいた
  3. `また、西行法師の詠んだ
  4. `道の辺に 清水流るる 柳陰 暫しとてこそ 立ち止まりつれ
  5. `の柳は、那須の蘆野の里にあって、田の畔に残る
  6. `この地の領主・戸部某が、
  7. `その柳をお見せしたい
  8. `など折々仰っていらしたのを、
  9. `どのあたりだろうか
  10. `と思っていたが、今日この柳の陰に立ち寄ることができた
  11. `田一枚 植えて立ち去る 柳かな