草加

現代語訳

  1. `今年は元禄二年か
  2. `奥羽への長旅をただなんということもなく思い立って、
  3. `世阿弥の『竹雪』にいつを呉山にあらねども、笠の雪の重さよ、老の白髪となりやせんと歌われるごとく、遥か異郷に苦労を重ねて白髪となる
  4. `とはいえ、耳にしただけで、いまだこの目に見ぬ地、
  5. `もしも生きて帰れたら
  6. `と、あてにならぬ望みをかけて、その日ようやく奥州街道第二番目の草加という宿に辿り着いた
  7. `痩せて骨ばった肩にかかる荷物にまず苦しんだ
  8. `ただ身ひとつでと発ったつもりでも、紙衣一着は防寒の夜着
  9. `浴衣、雨具、墨筆の類、また断りきれなかった餞別などは、さすがに捨てるに忍びなくて、足手まといになっているのには困った