三二 象潟

原文

  1. `江山水陸の風光数をして今象潟方寸を責む
  2. `酒田の湊より東北の山を礒を伝ひいさごをふみて十里日影ややかたぶく比汐風真砂を吹上雨朦朧として鳥海の山かくる
  3. `闇中莫作して
  4. `雨も又
  5. `とせば雨後の晴色頼母敷苫屋に膝をいれて雨の
  1. `て朝日花やかにさしる程に象潟に舟をうかぶ
  2. `能因島に舟をよせて三年幽居の跡をとぶらひむかふの岸に舟をあがれば
  3. `花の上こぐ
  4. `とよまれし桜の老木西行法師の記念をのこす
  5. `江上に御陵あり
  6. `神功后宮の御墓と
  7. `寺を干満珠寺
  8. `比処行幸ありし事いまだ
  9. `いかなる事にや
  10. `寺の方丈に座してば風景一眼のて南に鳥海天をささ陰うつりてにあり
  11. `西はむやむやの関路をかぎり東に堤をて秋田にかよふ道に海北にかまて浪打入る所を汐ごしと
  12. `縦横一里ばかり松島にかよひて又異なり
  13. `松島は笑ふが如く象潟はうらむがごとし
  14. `寂しさに悲しみをくは地勢魂をなやますに似たり
  15. `象潟や雨に西施がねぶの花
  16. `汐越や鶴はぎぬれて海涼し
  17. `祭礼
  18. `象潟や料理何くふ神祭
  19. `曾良
  20. `の家や戸板を敷て夕涼
  21. `みのの国の商人低耳
  22. `岩上に雎鳩の巣をみる
  23. `波こえぬ契ありてやみさごの巣
  24. `曾良