祇園精舎

原文

  1. `祇園精舎の鐘の声諸行無常の響あり
  2. `娑羅双樹の花の色盛者必衰の理を顕す
  3. `奢れる人も久しからずただ春の夜の夢の如し
  4. `猛き者もつひには滅びぬ偏に風の前の塵に同じ
  1. `遠く異朝を訪へば秦の趙高漢の王莽梁の周伊唐の禄山これらは皆旧主先皇の政にも従はず楽しみを極め諫めをも思ひ入れず天下の乱れん事を悟らずして民間の憂ふる所を知らざりしかば久しからずして亡じにし者共なり
  2. `近く本朝を窺ふに承平の将門天慶の純友康和の義親平治の信頼これらは猛き心も奢れる事も皆とりどりにこそありしか間近くは六波羅の入道前太政大臣平朝臣清盛公と申し人の有様伝へ承るこそ心も詞も及ばれね
  1. `その先祖を尋ぬれば桓武天皇第五の皇子一品式部卿葛原親王九代の後胤讃岐守正盛が孫刑部卿忠盛朝臣の嫡男なり
  2. `かの親王の御子高視王無官無位にして失せ給ひぬ
  3. `その御子高望王の時初めて平の姓を賜はつて上総介に成り給ひしより忽ちに王氏を出でて人臣に列なる
  4. `その子鎮守府将軍義茂後には国香と改む
  5. `国香より正盛に至るまで六代は諸国の受領たりしかども殿上の仙籍をば未だ許されず

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